高齢者の「かかりつけ薬剤師制度」利用は死亡リスクの低下と関連するか

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高齢化が進む日本において、高齢者へのサポートは、自治体の保健事業において重要な課題となっています。

特に、複数の慢性疾患を抱える高齢者は、多数の医薬品を服用する傾向があることから、適切な服薬管理を通じた疾患管理や医療費適正化が求められており、特定健診や保健指導の場でも適切な服薬の重要性がたびたび啓発されています。

今回ご紹介する研究は、2016年に導入された「かかりつけ薬剤師制度」の利用が、75歳以上の慢性疾患患者の入院や死亡のリスクにどのように関連しているかを分析したものです。

論文名:Family Pharmacist System for Patients With Chronic Cardiovascular or Endocrine Disease(慢性心血管疾患または内分泌疾患患者に対するかかりつけ薬剤師制度)

かかりつけ薬剤師制度と服薬・リスク実態の関連

高齢化が進む日本では、一人あたりの慢性疾患数の増加により服用する薬剤の数も増加しています。複数の薬剤を服用することは、薬物相互作用や治療の重複、服薬アドヒアランスの低下といったリスクを高め、深刻な健康問題につながる可能性があります。

この課題に対処するため、日本では2016年4月に「かかりつけ薬剤師制度」が導入されました。この制度は、患者が特定の薬剤師を指名し、処方薬や市販薬などの包括的な服薬管理や、医師等との情報共有などの手厚いサポートを受ける制度です。
先行研究では、この制度の利用が服薬アドヒアランスの向上や薬の飲み残しの調整に関連していることが報告されていましたが、入院や死亡リスクとの関連は十分に解明されていませんでした。

かかりつけ薬剤師制度の大規模分析

この研究では、DeSCヘルスケアが提供するデータベースを利用し、2015年4月から2024年3月のレセプトデータを分析しました。
対象となったのは、高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、心不全などの慢性的な心血管疾患または内分泌疾患の治療のために、薬局を利用している75歳以上の患者です。

分析では、かかりつけ薬剤師制度を利用した患者群(利用者)と、通常の服薬指導を受けた患者群(非利用者)からそれぞれ約2万2500人ずつを抽出し、複合的な健康リスク(あらゆる原因による死亡または入院)を比較しました。

その結果、かかりつけ薬剤師制度の利用と、死亡または入院の複合リスクの低下との間に有意な関連は認められませんでした。

一方で、死亡と入院のリスクに分け、それぞれについてかかりつけ薬剤師制度を利用している患者と利用していない患者と比較すると、入院リスクには差がなかったものの、あらゆる原因による死亡のリスクはわずかではあるものの有意に低い結果が示されました。

処方変更の頻度と薬物療法の最適化

さらにこの研究では、かかりつけ薬剤師の介入度合いを評価するため、薬剤師から医師への疑義照会等に基づく「処方変更」の発生率も分析されました。
その結果、かかりつけ薬剤師制度の利用者は、非利用者と比較して処方変更の発生率が約1.59倍高いことが明らかになりました。

これは、かかりつけ薬剤師が患者の服薬状況や生活背景をより深く把握し、重複投与や薬物相互作用の防止、残薬調整などを通じて、より積極的に医師と連携することが、薬物療法の最適化に寄与する可能性を示唆しています。

心不全患者などにおける関連性の示唆

疾患別のサブグループ解析においては、特に「心不全」の治療を受けている患者において、かかりつけ薬剤師制度の利用と死亡リスクの低下が有意に関連することが示されました。

心不全は、薬の確実な服用(服薬コンプライアンス)が特に強く求められる疾患です。
過去の研究でも、かかりつけ薬剤師制度が利用者の服薬アドヒアランスを向上させることが示されており、このような手厚いサポートが、心不全患者のような特定のハイリスク層において特に有用である可能性が示唆されています。

【保健観点】多剤服用対策としての「かかりつけ薬剤師」の活用

この研究結果は、心血管疾患や糖尿病などの慢性疾患を抱える後期高齢者の生命予後の改善(死亡リスクの低減)に向けた保健事業において、かかりつけ薬剤師制度の利用を促すことが、多剤服用(ポリファーマシー)の適正化や健康寿命の延伸に向けた介入戦略になりうる可能性を示唆しています。

自治体や健康保険組合の保健事業においては、以下の3つの取り組みが期待されます。

重複多剤服用の適正化に向けた健康教育

特定健診の事後指導や健康教室の場において、服薬種類が多い患者に対して、かかりつけ薬剤師を持つことの意義を周知することが考えられます。かかりつけ薬剤師の支援のもと、患者の服薬状況を包括的に管理することは、深刻な薬物相互作用や有害事象の回避につながることが期待されます。

通知事業等を通じたハイリスク者への介入

既存の「服薬情報のお知らせ」などの通知事業を活用し、重複服薬や多剤服用が疑われる対象者に対して、お薬手帳の活用と併せてかかりつけ薬剤師制度を個別に案内することが有効と考えられます。
特に、この研究で関連が示唆された心不全などの慢性疾患を持つ患者に対しては、適切な服薬管理の最適化が薬剤処方の適正化(ポリファーマシーの解消)を促し、結果として長期的な医療費の適正化の一助となる可能性が示唆されます。

服薬支援アプリや質問票を活用した服薬サポート

「後期高齢者の質問票」の服薬に関する回答や、服薬支援アプリを活用し、多数の薬を服用している対象者を早期に把握して、同制度の利用を促す情報を配信することも考えられます。
制度の利用によって残薬調整や重複投薬の防止が進むことは、患者の安全確保だけでなく、地域全体の薬剤費の適正化にもつながることが期待されます。

研究の注意点

この研究の結果を解釈する上で、以下の点に留意が必要です。

・レセプトデータを用いた分析であるため、個人の健康意識やライフスタイルといった情報のすべてを把握できているわけではありません。そのため、「そもそも健康に関心が高く、薬剤師のアドバイスを熱心に聞くような患者さんが、自ら進んでこの制度を利用していた可能性(選択バイアス)」を完全には排除できない点に注意が必要です。
・在宅医療や透析を受けている患者、アルツハイマー病や腫瘍の既往がある患者などを除外しているため、比較的健康な状態にある高齢者に結果の適用が限定される可能性があります。また、より若い年齢層へこの結果を適用する場合には注意が必要です。
・診断コードと処方薬に基づいて疾患グループを定義しているため、対象患者の分類に漏れや誤分類が生じている可能性があります。

まとめ

この研究は、大規模なレセプトデータを用いて、75歳以上の慢性心血管疾患または内分泌疾患患者におけるかかりつけ薬剤師制度の利用と、死亡および入院リスクとの関連を調査しました。
その結果、同制度の利用はあらゆる原因による入院または死亡の複合リスクの低下との関連は示されなかったものの、あらゆる原因による死亡リスクがわずかに低い傾向があることが示唆されました。
また、利用者において処方変更の頻度が高かったことから、かかりつけ薬剤師の介入による薬物療法の最適化が関連している可能性が考えられます。

※本コラムでご紹介している各研究には、保険者様の効果的かつ効率的な保健事業の実施に資する範囲で、アカデミアや製薬企業による論文発表などのエビデンス創出に活用することに利活用許諾をいただいた匿名加工情報、および提案募集制度を介して提供を受けた行政機関等匿名加工情報が用いられています。一部の研究では目的に応じ、いずれか一方のみを利用しているケースが含まれます。

引用・参考文献

Iketani R, Imai S. Family Pharmacist System for Patients With Chronic Cardiovascular or Endocrine Disease. JAMA Network Open. 2026;9(2):e2560398. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.60398

監修医師:石原藤樹

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