コロナ禍で普及した遠隔診療、対面と比べた入院割合の違いをデータ比較
新型コロナウイルス感染症の流行を契機に普及した遠隔診療(オンライン診療・電話診療)は、利便性の高さから自治体の保健事業や特定健診後の受診勧奨においても活用が期待されています。
高齢者の予防医療や医療費削減の観点からも重要な役割が期待されていますが、対面診療と比較したその後の入院などの重症化リスクの違いに関する客観的なデータは限られていました。
今回ご紹介する研究は、DeSCヘルスケアが提供する大規模なレセプトデータベースを活用し、呼吸器疾患または消化器疾患を抱える外来患者において、初診の遠隔診療と対面診療の受診後1ヶ月以内の入院割合を比較したものです。
データから見えてきた、遠隔診療の特性と、適切な医療アクセスのあり方についてご紹介します。
論文名:Hospitalization after Initial Telemedicine Versus in-Person Consultation for Outpatients with Respiratory or Digestive Diseases: A Retrospective Cohort Study(呼吸器疾患または消化器疾患の外来患者における初診遠隔診療と対面診療の受診後入院割合の比較:後ろ向きコホート研究)
DeSCデータを用いた初診遠隔診療と対面診療の大規模な比較分析
この研究では、DeSCヘルスケアが提供するデータベースを利用し、2020年4月から2022年11月までのレセプトデータを分析しました。
対象となったのは、急性の呼吸器疾患(新型コロナウイルス感染症を除く)または消化器疾患で外来を初診受診した約143万人です。
傾向スコアマッチングという統計手法を用いて患者の背景(年齢、性別、受診時期、併存疾患、直近1年間の処方や入院歴など)を揃え、初診で電話や通信機器を用いた遠隔診療を受けたグループ(5,527人)と、対面診療を受けたグループ(22,108人)を抽出し、受診から1ヶ月以内の入院の発生割合を比較しました。
その結果、初診における遠隔診療の利用は、対面診療と比較して、1ヶ月以内の入院割合の増加と有意に関連していることが示されました。
初診の遠隔診療は対面診療に比べて入院の割合が高い傾向
分析の結果、受診から1ヶ月以内に入院した患者の割合は、対面診療グループで0.5%であったのに対し、遠隔診療グループでは1.0%と、遠隔診療を受けた患者において統計的に有意に高い(オッズ比2.61)ことが明らかになりました。
なお、受診後1ヶ月以内の死亡の割合については両グループともに0.0%であり、有意な差は認められませんでした。
年齢層による関連性の違い:16歳以上の患者で顕著な関連
年齢層別のサブグループ解析では、年齢による関連性の違いが示唆されています。
15歳以下の患者では、遠隔診療と対面診療の間で入院割合に有意な差は認められませんでした。しかし、16歳から64歳の患者、および65歳以上の患者においては、遠隔診療グループの方が対面診療グループよりも入院の割合が有意に高いことが確認されました。
特に65歳以上の高齢者において、対面診療グループの入院割合が1.4%であったのに対し、遠隔診療グループでは2.3%となっており、高齢者における初診の遠隔診療の利用が、その後の入院割合の高さに関連している可能性が示されました。ただしこれらは二次的なサブグループ解析(補足的な分析)の結果であり、特に65歳以上では有意性も比較的弱い(p=0.028)ため、解釈には慎重さが必要です。
物理的診察と検査の重要性
なぜ遠隔診療で入院の割合が高くなる傾向があるのでしょうか。研究者らは、対面診療と遠隔診療で得られる情報量の違いが影響している可能性を指摘しています。
対面診療では、問診に加えて触診、打診、聴診といった身体診察や、バイタルサインの確認、必要な検査を実施することができます。一方、遠隔診療では問診は可能ですが、物理的な診察や即時の検査が制限されます。
特に高齢者においては、複数の疾患を抱えていることが多く、また通信機器の操作に不慣れなケースもあることから、対面診療による詳細な評価が必要な場合が多いと考察されています。
【保健観点】論文から考える、適切な医療アクセスの促進と保健指導
今回の研究結果は、呼吸器疾患や消化器疾患の初診において、遠隔診療が対面診療と比較して入院の割合の増加に関連している可能性を示唆しています。
これは自治体の保健事業において、より効果的な健康支援策や適切な受診行動の啓発を検討する上で重要な示唆を与えると考えられます。
症状に応じた受診行動の啓発
遠隔診療は利便性が高い一方で、物理的な診察や検査が制限されるという特徴があります。
保健事業における住民への健康教育では、この研究結果をふまえ、特に「急な症状の変化」や「初めての症状(初診)」がある場合には、まず対面診療を選択し、医師による直接の診察を受けることの重要性を伝えることが、重症化の予防という観点からも意義があると考えられます。
一方で、遠隔診療は「状態が安定している慢性疾患の定期受診(再診)」などでの活用が一般的に推奨されていますが、今回の研究はあくまで急性の呼吸器・消化器疾患の初診を対象としたものです 。症状や状況に応じて、対面診療と遠隔診療を使い分ける「適切な受診行動」の啓発が求められます。
高齢者への対面診療の推奨とサポート
この研究では、特に65歳以上の高齢者において初診の遠隔診療が入院割合の増加と関連していました。
高齢者は複数の疾患を持っていることが多く、正確な診断のためには対面での診察が不可欠となるケースが少なくありません。
特定健診の結果説明や保健指導の場を活用し、高齢者に対しては、急な体調不良時や初診時にはかかりつけ医などの対面診療を優先して受診するよう促すことが、入院や重症化の予防の一助となる可能性が考えられます。
地域の医療・介護連携による早期受診へのつなぎ
本研究が直接検証したものではありませんが、適切な医療アクセスの実現には、自治体の保健師やケアマネージャーなどが日常的に高齢者の状態を把握する仕組みが有効と考えられます。
住民の健康状態のわずかな変化を早期に捉え、オンラインでの相談窓口等も活用しつつ、必要に応じて速やかに地域の医療機関での対面診療へとつなぐ連携体制を構築することが、結果として重症化や入院に繋がる前に適切な受診へつなぐためのアプローチとして期待されます。
研究の注意点
この研究の結果を解釈する上で、以下の点に留意が必要です。
・レセプトデータベースを用いた観察研究であり、遠隔診療と対面診療で得られた身体的所見や検査結果の正確な違いを把握することはできません。
・自覚症状が重いと感じている患者は遠隔診療よりも対面診療を選択する傾向があるため、遠隔診療のグループには比較的健康な(軽症の)患者が多く含まれていた可能性(選択バイアス)があります。そのため、今回の入院割合の結果にも影響を及ぼしている可能性があるため、慎重な解釈が必要です。
・今回のデータでは、電話のみの診療と、ビデオ通話などを用いたオンライン診療を区別できていないため、通信手段の違いによる影響を評価できていません。
・慢性疾患に対する遠隔診療の有効性については評価されておらず、この研究の結果をそのまま他の疾患に一般化することには慎重な解釈が必要です。
・入院の起こりやすさは、どの医療機関を受診したかによる影響も大きいことが示されており(施設間のばらつき)、遠隔診療か対面診療かという要素だけで説明できるものではありません。
・対象期間(2020〜2022年)は、地域によって入院病床のひっ迫具合が大きく異なっていました。今回のデータにはそうした地域ごとの医療体制の違いが完全には反映されていないため、結果の解釈には注意が必要です。
・今回のデータでは、患者さんが「何の病気やケガで入院したか」という具体的な理由までは区別されていません。そのため、遠隔診療を受けたことで呼吸器や消化器の症状が悪化して入院した、とは必ずしも言い切れない点に注意が必要です。
まとめ
この研究では、大規模なレセプトデータを用いた分析により、呼吸器疾患または消化器疾患の初診において、遠隔診療を受けた患者は、対面診療を受けた患者と比較して受診後1ヶ月以内の入院割合が有意に高いことが示されました。
特に16歳以上の患者でこの関連が見られ、物理的な診察や検査が制限される遠隔診療の特性が、入院に至る前の評価や初期の対応に影響を与えている可能性が示唆されました。
※本コラムでご紹介している各研究には、保険者様の効果的かつ効率的な保健事業の実施に資する範囲で、アカデミアや製薬企業による論文発表などのエビデンス創出に活用することに利活用許諾をいただいた匿名加工情報、および提案募集制度を介して提供を受けた行政機関等匿名加工情報が用いられています。一部の研究では目的に応じ、いずれか一方のみを利用しているケースが含まれます。
引用・参考文献
Morita T, Sasabuchi Y, Yasunaga H. Hospitalization after Initial Telemedicine Versus in-Person Consultation for Outpatients with Respiratory or Digestive Diseases: A Retrospective Cohort Study. JMA J. 2026;9(1):89-96.
監修医師:石原藤樹