体重の経年変化に着目、BMIの減少やばらつきと認知症リスクの関連
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高齢化が進む日本において、認知症の予防や早期発見は、自治体や国保の保険者にとって極めて重要な課題となっています。
これまで、体重の変動と認知症リスクの関連は先行研究でも報告されていましたが、体重が一方向に増減する傾きの影響を除いた「純粋なばらつき」で評価した研究はほとんどありませんでした。
今回ご紹介する研究は、DeSCヘルスケアが提供するデータベースを活用し、複数年にわたる健診データからBMIのばらつき(ジグザグした動き)および増減率が、将来的な認知症リスクとどのように関連しているかを分析したものです。
論文名:The impact of slope-adjusted visit-to-visit body mass index variability on early dementia risk prediction(傾斜調整済み受診間BMI変動が早期認知症リスク予測に及ぼす影響)
約30万人の経年データで分析、BMIの変動と認知症リスクの関連
この研究では、DeSCヘルスケアが提供する国民健康保険(国保)のデータベース(2015〜2023年)を活用し、8年以内に5回の特定健診を受けた50歳から74歳の303,042人(平均年齢66.6歳、男性38.6%、女性61.4%)を対象に分析しました。
健診ごとに測定されたBMIのばらつきや経年変化を算出し、5回目の健診受診日以降の抗認知症薬の新規処方開始を指標として、認知症リスクとの関連を評価しました。(本コラムでは便宜上、認知症の発症と表現しますが、正確には抗認知症薬の処方開始を指標としています)
研究では平均約2.2年間の追跡期間中に、665人が抗認知症薬の処方を開始しました。
分析の結果、年齢や血圧・血糖などの背景要因を統計的に考慮した上でも、全体的な体重の増減トレンドとは独立して、年ごとのBMIのばらつきが特に大きいグループ(上位3分の1)では、将来的な認知症リスクが有意に高いことが示されました。ばらつきが中程度までのグループの間では、リスクに差はみられませんでした。
経年BMIのばらつきに着目した新しい評価のしくみ
毎年の体重のばらつきを評価する際、従来の単純な標準偏差(SD)を用いる方法には、計算上の限界が指摘されていました。BMIが一貫して右肩下がりに減少している、あるいは右肩上がりに増加しているといった傾きが急な人では、実際には年ごとの増減ペースが一定であっても、最初と最後の数値の差が大きいために、計算上、年ごとのばらつき(不安定さ)が大きいと過大に判定されてしまう課題があったためです。
そこでこの研究では、個人ごとの直線的な増減トレンドの影響を統計的に取り除いた、傾斜調整済みBMI標準偏差(Slope-adjusted BMI-SD)という新しい指数を用いています。これにより、「直線的な体重の減少・増加のトレンド」と、「年ごとの純粋なばらつき(不安定さ)」を明確に区別して評価できるようになりました。
分析の結果、この傾斜調整済みBMI標準偏差が最も高いグループ(0.50 kg/m²以上)は、最も低いグループ(0.31 kg/m²以下)と比べて、将来的な認知症リスクが有意に高いことが示されました。
BMIの年間減少率の大きさと認知症リスクの関連
年間のBMI変化(体重の増減トレンド)と将来の認知症リスクとの関連に、重要な特徴がありました。それは、リスクのあらわれ方が体重が減るほど良い、あるいは増えるほど悪いという一方向のものではなく、増減いずれの方向でもリスクが高まるU字型(谷型)の関連を示したという点です。
特に、最もリスクが低かった「体重がほぼ変わらない現状維持グループ(年に0.36%以内に増減幅が収まっている)」を基準とした場合、BMIが年に0.31%以上減少したグループ(減少幅が最も大きい)で、認知症リスクが約1.6倍と顕著に高いことが示されました(ハザード比1.60)。一方、体重が増加する方向のリスク上昇は、減少側に比べると緩やかでした。
つまり、年間の体重変化が小さいグループで認知症リスクが最も低く、増減どちらの方向に離れてもリスクが高くなる関係が見られました。なかでも大きく減少するパターンは、認知症リスクが高い傾向にあると示唆されます。
BMI変動と認知症リスクの関連は女性でより顕著に
この研究では、BMIのばらつきと認知症リスクとの関連について、様々な背景因子(年齢、喫煙、飲酒、血圧、血糖、服薬状況など)でグループを分けて詳細な分析を行いました。その結果、性別においてのみ統計学的に有意な関連の違い(交互作用P=0.0039)が確認されました。
ばらつきが大きいグループの認知症リスクは、女性で約1.9倍(ハザード比1.91)と有意な上昇が認められた一方、男性(ハザード比1.22)では統計的に有意な上昇はみられませんでした。
また、年齢や血圧、血糖値などの健診データから将来の認知症リスクを予測する計算モデルに、今回のBMIのばらつきの指数を新たに追加したところ、女性においてのみ将来のリスクを見分ける能力が統計学的に有意に向上することが確認されました。ここから、女性受診者における体重の不安定さは、認知症予防に向けた重要な指標となる可能性があります。
【保健観点】論文から考えるBMIの経年変化と認知症リスクの示唆
この研究の結果は、特定健診で得られる毎年の身長・体重データについて、単年度の数値を見るだけでなく、過去のデータと連結して経年的に評価すること(線で捉えること)が、認知症のリスク管理において有用である可能性を示唆しています。この知見を自治体の保健事業や特定健診に応用することで、以下のようなアプローチや施策が考えられます。
BMIを「線」でみることが新たな目安のひとつに
単年度の健診でBMIが正常範囲内と判定され、通常の保健指導の対象から外れる受診者であっても、過去のデータと結んでBMIの年ごとのばらつき(変動)や年間の減少傾向をシステム上で自動算出することで、認知症ハイリスクの可能性のある層を早期に把握するアプローチが考えられます。
特に、体重が不安定な女性受診者の場合や、男女を問わずこの研究で減少幅が大きいとされた層(BMIが年に0.31%以上減少していた層)に相当する受診者を把握することも、一つの目安になると考えられます。
女性受診者や体重減少者への重点的なアプローチ
この研究から得られる示唆として、体重の不安定さと認知症リスクの関連が特に強く認められた女性受診者や、一定以上の体重減少を示す受診者に対しては、自治体が健康教育や情報提供、質問票などを用いたフォローアップを行うことも一つの可能性と考えられます。
これら体重に関するアプローチが、糖尿病の合併症予防や生活習慣病対策としてだけでなく、認知症の早期発見・予防にもつながっていくことが期待されます。
かかりつけ医との連携による服薬支援と生活習慣指導の強化
体重の不安定さや大きな体重減少の背景には、栄養状態の悪化や、食事の準備が難しくなるといった生活面の変化が潜んでいる場合があります。
こうした患者へのサポートとして、かかりつけ医と連携し、受診者が処方薬を適切に服用できているかを確認する体制を整えることや、低栄養を防ぐための栄養指導(食事・運動プログラム)を継続的に提供することなどが考えられます。結果的に脳や血管の健康維持につながり、将来的な医療・介護費の適正化にも寄与することが期待されます。
研究の注意点
この研究の結果を解釈する上で、以下の点に留意が必要です。
・対象者の健康意識の影響:5回すべての特定健診を受けている人を対象としているため、地域の一般住民全体と比べて健康意識が高い層(健康者バイアス)のデータに基づいている可能性があり、結果をより広い集団に一般化する際には注意が必要です。
・認知症の判定基準:レセプトデータ上の「抗認知症薬の新規処方開始」を認知症発症の代替指標として定義しているため、薬物治療を受けていない初期の認知症の方や、非薬物療法のみの方はこの研究での認知症発症に含まれていません。
・認知症のタイプ:アルツハイマー型やレビー小体型といった認知症のタイプ別の分析や、認知機能の程度を評価する検査データは含まれていません。
・追跡期間の長さ:平均の追跡期間が約2年(2.17年)と比較的短いため、さらに長期的なBMIの変動や減少傾向が認知症リスクに及ぼす影響を正確に評価するには、長期的な追加検証が必要です。
・未測定の背景要因:教育歴や経済状況、遺伝的要因(APOE遺伝子型など)といった、データベースに含まれず調整できなかった要因が、結果に影響を与えている可能性があります。
まとめ
この研究では、日本の50歳から74歳の健診受診者において、経年的な「BMIのばらつき(変動の大きさ)」が、将来的な認知症リスクの上昇と独立して関連していることが示されました。この関連は、男性よりも女性でより明確にあらわれる特徴があります。
また、直線的なBMIの減少(年間−0.31%以上の減少)も、認知症リスクの予測因子であることが示されました。
※本コラムでご紹介している各研究には、保険者様の効果的かつ効率的な保健事業の実施に資する範囲で、アカデミアや製薬企業による論文発表などのエビデンス創出に活用することに利活用許諾をいただいた匿名加工情報、および提案募集制度を介して提供を受けた行政機関等匿名加工情報が用いられています。一部の研究では目的に応じ、いずれか一方のみを利用しているケースが含まれます。
※本コラムは、保険者の皆様に論文の知見を分かりやすくお伝えするため、データホライゾン社において内容を意訳・要約したものです。実際の保健事業や施策へ知見を応用・活用される場合は、各事業の特性や地域の実情に応じ、必要に応じて公衆衛生や医療の専門家にご相談のうえ、ご判断いただくようお願いいたします。
引用・参考文献
Satoh M, Nobayashi H, Yagihashi T, Iwabe Y, Izumi S, Murakami T, et al. The impact of slope-adjusted visit-to-visit body mass index variability on early dementia risk prediction. International Journal of Obesity. 2026;50:1115–1123. doi: 10.1038/s41366-026-02052-z.
監修医師:石原藤樹