メタボ予防の新たな視点、BMIを補う体型指数と全死亡リスクの関連
- ホーム
- 論文コラム
- メタボ予防の新たな視点、BMIを補う体型指数と全死亡リスクの関連
特定健診や保健指導において、肥満の判定には主に腹囲とBMI*1が用いられています。BMIは計算が簡便である一方、筋肉と脂肪の割合や、内臓脂肪の蓄積といった「体脂肪の分布」までは反映できないという課題が指摘されてきました。
近年、このBMIの限界を補う新たな指数として、腹囲や身長などを加味して体型を評価する「BRI(Body Roundness Index)」*2や「ABSI(A Body Shape Index)」*3が注目されています。
しかし、欧米での先行研究はあるものの、アジア人においてこれらの指数が将来の死亡リスク予測にどう役立つかは、これまで十分に明らかになっていませんでした。
今回ご紹介する研究は、DeSCヘルスケアが提供する大規模なデータベースを活用し、日本の国民健康保険および後期高齢者医療制度に加入する健診受診者において、BMI、BRI、ABSIがそれぞれ全死因死亡リスクとどのように関連するかを比較・検討したものです。
*1 BMI:体重と身長から算出され、全身の肥満度を簡易的に評価する指数
*2 BRI:身長と腹囲から体の「丸み」を算出し、内臓脂肪の蓄積度を推測する指数
*3 ABSI:BMI(身長と体重のバランス)に対して、腹囲がどれだけ大きいかを算出し、特に腹部肥満(お腹の出っ張り具合)を評価する指数
論文名:Body Roundness Index and Body Shape Index as Predictors for All-Cause Mortality Beyond Body Mass Index: Findings From a National Cohort Study(BRIとABSIはBMIにとどまらない全死亡率の予測因子である:全国コホート研究の知見)
約78万人のデータで比較。BMI、BRI、ABSIと死亡リスクの関連
この研究では、DeSCヘルスケアが提供するデータベースを利用し、2014年4月から2022年11月までに健診を受診した40歳以上の778,812人(平均年齢62.8歳、女性57.2%)を対象に分析を行いました。
対象者のBMI、BRI、ABSIの数値をそれぞれ数値の低い順に5つのグループに分け、追跡期間(中央値4.53年)中に発生した全死因死亡(14,690人)との関連を評価しました。なお、5つのグループは人数を均等に分けたものではなく、死亡リスクの変わり目にあたる数値を区切りとして設けています。
その結果、BMIとBRIは低すぎても高すぎても死亡リスクが上昇するU字型の関連を示したのに対し、ABSIは数値が一定水準を超えると死亡リスクが上昇するJ字型の関連を示すことが明らかになりました。
BRIとABSIは、BMIよりも有意差が認められたグループ数が多かった
3つの指数それぞれにおいて、数値が真ん中のグループを基準に低い側と高い側の各2グループ(計4グループ)の死亡リスクを比較しました。
その結果、BMIでは4つのグループのうち、BMIがやや高い群以外の3つのグループで有意な死亡リスクの差が認められました。具体的には、最も低いグループの死亡リスクは真ん中のグループの約1.8倍 (ハザード比1.83)、最も高いグループでは約1.3倍でした。一方、BRIとABSIでは、4つのグループすべてで有意な死亡リスクの差が確認されました。
この結果は、BRIやABSIがそれぞれの指数の特性(U字型・J字型)に基づき、BMIだけでは見ることができなかった死亡リスクの差を特定できる可能性を示しています。さらにこの研究では、BMIが同じくらいの人たちの中でも、BRIやABSIの数値が高い人のほうが死亡リスクが高い傾向が見られました。
つまり、BMI単体では「同じくらいのリスク」に見えていた人たちの中から、より危険度の高い人を細かく拾い上げられる可能性を示唆しており、これらの指数を用いることで、これまでBMIが持っていた限界を補完する、追加の知見を提供する可能性を示しています。
BMIの限界を補う「体型(体のどこに脂肪がついているか)」評価の重要性
BMIは身長と体重のみから算出されるため、脂肪と筋肉の割合や、内臓脂肪の蓄積といった「体型(体のどこに脂肪がついているか)」までは反映できないという限界が指摘されてきました。
この研究では、腹囲を加味したBRIやABSIが、BMIよりも多くのグループで死亡リスクの違いを見分けられました。これは、体型指数がBMIだけでは捉えきれない情報を補い、死亡リスクの評価に役立つ可能性を示すものです。
体重の増減という指標だけでなく、お腹周りなどの「体型(体のどこに脂肪がついているか)」を併せて評価することが、隠れた健康リスクをより精緻に把握するカギとなる可能性がデータから示唆されました。
BMIに代わる指数となるか。実用化に向けた課題
これらの結果から、BRIやABSIは、BMIが見落としてしまう体脂肪の分布(例えば、筋肉質で体重が重いのか、内臓脂肪が蓄積して腹囲が大きいのか)を捉えることで、より細かなリスク評価となる可能性が期待できます。
一方で、これらの新しい指数の計算には複雑な数式(身長、体重、腹囲などを用いた計算)が必要となるため、簡便なBMIに比べて臨床現場や健診の場で日常的に使用するにはハードルがあることも研究者らは指摘しています。
現状では、BMIを完全に置き換えるのではなく、BMIを補完する追加の評価指数として活用することが現実的であると考察されています。
【保健観点】論文から考える、より実効性の高い肥満介入と保健指導の展望
今回ご紹介した研究では、BRIやABSIといった腹囲等を加味した新しい体型指数が、従来のBMI以上に精緻な死亡リスクの評価につながる可能性が示されました。 この知見を自治体の保健事業や特定健診に活かすことで、以下のようなアプローチが考えられます。
「隠れ肥満」リスク層の早期発見
BMIが基準値の範囲内であっても、お腹周りに脂肪がついている方を見落としてしまうケースがあります。
今回ご紹介した論文はエビデンスの蓄積段階であるため、BRIやABSIの実用化に向けてはさらなる検証が必要となりますが、特定健診で得られる腹囲や身長のデータを活用して、BRIやABSIに近いリスク評価を行うことができれば、BMIだけでは抽出できなかった将来のハイリスク者を早期に特定し、優先的に保健指導の対象とするなどの可能性が将来的に考えられます。
腹囲管理の重要性の再認識と啓発
この研究結果は、体重そのものだけでなく、体脂肪の分布(特にお腹周りの脂肪)が健康リスクに関連していることを改めて示唆するものです。
保健指導の現場では、体重だけでなく腹囲を含めた体型の情報が将来の死亡リスクと関連していることをこの研究のような客観的なデータとともに伝えられます。
体重の増減だけでは捉えきれない側面があることを共有することが、対象者の関心を高める一助となると考えられます。
個別化されたリスク評価へのデータ活用
BMIは計算が簡単で有用な指数ですが、万能ではありません。
自治体が保有する健診データを経年で分析し、BMIの変化だけでなく、腹囲の増減スピードや、今回のような新たな指数の考え方を組み合わせたアプローチは、より有効なデータモニタリングへ発展させられる余地があると考えられます。
一人ひとりの体格や体脂肪分布の特性に合わせた「個別化されたリスク評価」を推進することで、限られた保健リソースをより必要性の高い方へ重点化し、効率的な重症化予防につなげられる可能性があります。
研究の注意点
この研究の結果を解釈する上で、以下の点に留意が必要です。
・対象者の大部分がアジア人(日本人)であるため、人種による体組成の違いを考慮すると、この結果をそのまま他の人種に当てはめることはできません。
・レセプトデータ等を用いているため、死因別の死亡データ(心血管死やがん死など)を入手できておらず、どの疾患による死亡リスクと強く関連しているかまでは特定されていません。
・中央値4.53年という観察期間は比較的短く、長期的な死亡リスクとの関連を評価するには、さらなる追跡調査が待たれます。
・データベースの制約により、教育歴や所得などの社会経済的要因を調整できていないため、結果に影響を与えている可能性(未測定の交絡)があります。
まとめ
今回の分析の結果、日本の健診受診者において、新たな指数であるBRIやABSIは、BMIよりも多くのカテゴリにおいて死亡リスクとの間に有意差が確認されました。これらの指数を用いることで、これまでBMIが持っていた限界を補完する、追加の知見を提供する可能性を示しています。
今後の保健事業においては、BMIだけでなく腹囲などの体脂肪分布を反映する指標の重要性を再認識し、健診データを多角的に活用することで、従来の基準では見落とされがちであったハイリスク者を早期に特定・支援していくアプローチが、重症化予防と医療費適正化の推進に寄与することが期待されます。
※本コラムでご紹介している各研究には、保険者様の効果的かつ効率的な保健事業の実施に資する範囲で、アカデミアや製薬企業による論文発表などのエビデンス創出に活用することに利活用許諾をいただいた匿名加工情報、および提案募集制度を介して提供を受けた行政機関等匿名加工情報が用いられています。一部の研究では目的に応じ、いずれか一方のみを利用しているケースが含まれます。
※本コラムは、保険者の皆様に論文の知見を分かりやすくお伝えするため、データホライゾン社において内容を意訳・要約したものです。実際の保健事業や施策へ知見を応用・活用される場合は、各事業の特性や地域の実情に応じ、必要に応じて公衆衛生や医療の専門家にご相談のうえ、ご判断いただくようお願いいたします。
引用・参考文献
Kimura Y, Inoue N, Yasunaga H. Body Roundness Index and Body Shape Index as Predictors for All-Cause Mortality Beyond Body Mass Index: Findings From a National Cohort Study. Journal of Obesity. 2026;2026:7923338. doi: 10.1155/jobe/7923338.
監修医師:石原藤樹