「朝食抜き」と「遅い夕食」。骨粗鬆症性骨折リスクとの関連が明らかに
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高齢者の骨粗鬆症による骨折は、高齢者のQOL(生活の質)の維持や健康寿命の延伸に大きく影響すると言われています。特定健診や保健指導と同様に、骨粗鬆症予防も医療費抑制のための重要な観点と言えるでしょう。
従来の研究から、骨粗鬆症性骨折のリスクを高める要因として、運動不足や喫煙、過度な飲酒などが広く知られてきました。しかし、日常的な食事のタイミングが骨粗鬆症性骨折のリスクにどう影響するかについては、これまで十分に解明されていませんでした。
今回ご紹介する研究は、朝食抜きや夜遅い夕食といった食習慣が、骨粗鬆症性骨折のリスクにどのように関連しているかを明らかにしたものです。
論文名:Dietary Habits and Osteoporotic Fracture Risk: Retrospective Cohort Study Using Large-Scale Claims Data(食習慣と骨粗鬆症性骨折リスク:保険請求データを用いた後ろ向きコホート研究)
食習慣と骨粗鬆症性骨折の関係性
この研究は、DeSCヘルスケアが提供するレセプトおよび健康診断データを利用し、20歳以上の約93万人を対象に、食習慣を含む生活習慣と骨粗鬆症性骨折(股関節、遠位前腕、椎体、上腕骨の骨折)のリスクとの関連を調査したものです。
中央値でおよそ2.6年間の追跡調査の結果、朝食抜きや遅い夕食といった食習慣が、従来言われている危険因子(年齢、性別、BMI、運動習慣などの他の生活習慣)の影響を除いても、骨粗鬆症性骨折のリスク上昇と独立して関連していることが、初めて明らかになりました。
骨折リスクを高める「食習慣」
従来の研究では、運動不足、睡眠不足、喫煙、多量の飲酒といった生活習慣が骨粗鬆症のリスクとして特定されていました。一方で今回の研究のように、朝食抜きや遅い夕食といった食習慣との関連について、大規模なデータを用いた分析による報告はほとんどありませんでした。
この研究では、従来の危険因子の影響を取り除いて解析した後でも、朝食を抜く習慣(週3回以上)がある場合、骨粗鬆症性骨折のリスクが18%増加し、統計的に有意に高いことが示されました。
また、遅い夕食(就寝前の2時間以内に夕食を摂る習慣が週3回以上)の習慣も、骨折リスクを8%高めることに関連していました。骨粗鬆症の危険因子には変えられないもの(年齢や家族歴)もありますが、食習慣は自分の意志で改善できる因子です。この発見は、今後の予防対策を考える上で一つの材料となる可能性があります。
不健康な生活習慣の重複
さらに注目すべきは、不健康な生活習慣は重複する可能性があるという点です。「朝食抜き」と「遅い夕食」の両方の習慣を持つグループは、どちらの習慣もないグループと比較して、他の不健康な生活習慣を複合的に持っている傾向が見られました。
具体的には、この「朝食抜き+遅い夕食」のグループは、他のグループと比較して喫煙者の割合(42.6%)が最も高く、一方で定期的な運動習慣を持つ人(23.2%)や十分な睡眠をとっている人の割合が最も低いという、不健康な生活習慣の重複に陥りやすい特徴がありました。
不健康な食習慣によって骨粗鬆症性骨折のリスクは積み重なるように上昇します。朝食抜きと遅い夕食の両方の習慣がある場合は、片方だけある場合よりもさらにリスクが高まり、骨粗鬆症性骨折の発生率が最も高くなることが示されています。
食習慣が骨代謝にも影響
なぜ、食事の「タイミング」が骨に影響するのでしょうか。 既存研究では、遅い時間に夕食を摂る習慣が、血糖値の乱れや、ストレスホルモンである「コルチゾール」の上昇、さらには体内で老化の原因となる「酸化ストレス」の増加と関連している可能性が指摘されています。
コルチゾールや酸化ストレスの増加は、骨を新しく作り替えるサイクル(骨代謝)に悪影響を与える可能性があります。また、朝食を抜くことは、骨の形成に必要なビタミンDやカルシウムといった栄養素の摂取不足との関連が示唆されています。
食習慣は私たちの「体内時計」を整えるスイッチでもあります。不規則な食事が体内時計を乱し、結果として骨の健康を損なっている可能性も考えられます。
【保健観点】骨粗鬆症性骨折予防における「食事のタイミング」という介入戦略
今回の研究結果は、骨粗鬆症性骨折の予防に向けた保健事業において、従来の介入対象であった運動や喫煙、栄養指導だけでなく、食事のタイミングなどの「食習慣」への介入が予防戦略になりうる可能性を示唆しています。今後、さらなる介入研究が必要ですが、その結果によって、以下のような介入戦略を立てられる可能性があります。
包括的な食習慣の改善による多角的アプローチ
今回の研究では、朝食抜きや遅い夕食といった習慣は、喫煙、運動不足、睡眠不足など、他の不健康な生活習慣とも複合的に関連している可能性が示唆されました。これは逆に言えば、包括的に「食習慣」の改善を促すことが、他の不健康な生活習慣の改善にもつながる可能性を示唆します。食事指導を通じて生活リズムを整えることで、結果として多角的な危険因子に同時にアプローチできる可能性があります。
既存の「質問票」を活用したハイリスク者の早期特定
今回研究に用いた「標準的な質問票(*1)」の回答(朝食欠食や夕食時間の項目)は、特定健診で広く実施されているため、実務上で新たな検査を追加する必要はありません。
これらの回答情報と、その他の既存の指標を組み合わせることで、骨折リスクの高い対象者のスクリーニング精度をより高められる可能性があります。
特に、まだ骨密度低下が顕著でない若年・中年層であっても、これらの不健康な習慣を複合して持っている層を早期に特定し、行動変容を促すプログラムを展開することは、将来的な骨折による重症化(要介護化)を防ぎ、長期的な医療費適正化に貢献することが期待されます。
*1 参考:特定健診の標準的な質問票|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu/dl/hoken-program2_02.pdf)
「生活習慣改善」と「骨折予防」の統合的アプローチ
今回、「食習慣と骨粗鬆症性骨折の関連性」が示されたことで、骨粗鬆症は単なる加齢現象ではなく、「生活習慣」に関連しうる疾患であることがあらためて示唆されました。これは、既存の「メタボリックシンドローム対策(特定保健指導)」の中に、骨折予防の視点(食習慣の改善など)を組み込める可能性を示しています。生活習慣改善と骨折予防を包括的にアプローチすることで、効率的かつ効果的な疾患予防に資する可能性が考えられます。
研究の注意点
本研究の結果を解釈する上で、以下の点に留意が必要です。
・分析にあたり、過去の病歴を確認する期間(ウォッシュアウト期間)を健康診断日の1年間と設定しました。そのため、それ以前(1年以上前)に起きた骨粗鬆症性骨折の有無を完全には把握・除去できていない可能性があります。
・骨粗鬆症は遺伝的要因も大きいですが、DeSCデータベースには家族歴の情報が含まれていないため、その影響は調整(考慮)されていません。
・生活習慣に関するデータは、健康診断の質問票(自己申告)に基づいています。飲酒以外の項目は主に「はい/いいえ」の二者択一であり、「どのくらいの量を食べたか」といった詳細な定量的評価まではできていません。
・今回の分析対象となった骨折には、交通事故や高所からの転落など、骨の脆さとは直接関係のない「大きな衝撃による骨折(高エネルギー外傷)」が含まれている可能性があり、詳細な原因までは区別できていません。
まとめ
今回の分析の結果、朝食抜きや遅い夕食の習慣は、従来の危険因子(年齢、性別、BMI、運動、喫煙など)とは独立して、骨粗鬆症性骨折のリスクを有意に高めることが示されました。
特に、朝食抜きと遅い夕食の両方の習慣がある場合、骨折リスクは最も高くなることが明らかとなりました。さらにこの層には、喫煙や運動不足といった他の不健康な生活習慣も複合的に作用している傾向が見られました。
骨粗鬆症性骨折が食事のタイミングを含む生活習慣に関連する疾患であることがあらためて示唆されたことで、特定健診の生活習慣に関する質問票を活用したハイリスク対象者の特定や、対象者への食事のタイミングを含めた包括的な食習慣の改善指導を中心とした介入が新たな予防戦略となりうる可能性が考えられます。
※本コラムでご紹介している各研究には、保険者様の効果的かつ効率的な保健事業の実施に資する範囲で、アカデミアや製薬企業による論文発表などのエビデンス創出に活用することに利活用許諾をいただいた匿名加工情報、および提案募集制度を介して提供を受けた行政機関等匿名加工情報が用いられています。一部の研究では目的に応じ、いずれか一方のみを利用しているケースが含まれます。
引用・参考文献
Nakajima H, Nishioka Y, Tamaki Y, Kamitani F, Kurematsu Y, Okada S, et al. Dietary habits and osteoporotic fracture risk: retrospective cohort study using large-scale claims data. J Endocr Soc. 2025;9(9):bvaf127. doi: 10.1210/jendso/bvaf127.
監修医師:石原藤樹