“たった3つ”の健診質問で将来の骨折を早期発見!高齢者のための予防戦略|健康に暮らせる未来を創る 株式会社データホライゾン                                    

“たった3つ”の健診質問で将来の骨折を早期発見!高齢者のための予防戦略

骨折リスクに関するイメージ画像

年々増加する後期高齢者の医療費は、多くの自治体にとって喫緊の課題となっています。特に、要介護状態となる原因の1つである骨折は、生活の質を著しく低下させるだけでなく、入院や治療による医療費を押し上げる大きな要因です。骨折を未然に防ぐための効果的な予防策は、自治体の保健事業において重要なテーマと言えるでしょう。

今回ご紹介する研究は、後期高齢者の健康診断(健診)で使われる「後期高齢者の質問票」に含まれるたった3つの質問が、将来の骨折リスクを予測する上で有用な手掛かりとなることが明らかになりました。

論文名:Association between subjective physical function and occurrence of new fractures in older adults: A retrospective cohort study
後期高齢者における主観的運動機能評価と新規骨折発生との関連:レトロスペクティブコホート研究

主観的な質問回答と骨折発生の関連を調査

本研究は、DeSCヘルスケアが提供する約1,200万人のレセプト・健診データを含むデータベースから、75歳以上の後期高齢者11,683人を抽出し、要介護認定につながる骨折のリスク因子を分析しています。

具体的には、後期高齢者の健診で用いられる「後期高齢者の質問票」のうち、主観的な身体機能に関する3つの質問(「主観的な歩行速度の低下」「過去1年間の転倒歴」「週1回以上の運動習慣の有無」)への回答と、その後の1年間の新規骨折発生との関連を調査しました。

その結果、これら3つの質問への回答が、新規骨折の発生と関連していることが判明しました。さらに、これらの3つの質問への該当する項目が多いほど骨折リスクが高まることも明らかになりました。

骨折リスクを予測する「3つの質問」

新規骨折の発生と有意な関連が認められたのは、以下の3つの質問に対する回答です。

・「以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか」(主観的な歩行速度の低下)
・「この1年間に転んだことがありますか」(過去1年間の転倒歴)
・「ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか」(週1回以上の運動習慣の有無)
出典:「後期高齢者の質問票の解説と留意事項」(厚生労働省)P2(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000557576.pdf)

特に「過去1年間の転倒歴」があると、骨折のリスクが約2.03倍に、「主観的な歩行速度の低下」があると約1.63倍に高まることが示されました。また、「週1回以上の運動習慣がない」場合の骨折リスクは約1.29倍でした。
さらに、これらの質問で骨折リスクに当てはまる項目の数が増えるほど、骨折の発生率は3.9%から17.4%へと段階的に上昇することが結果で示されています。

大規模データが明らかにした「主観的な評価」の有用性

この研究で重要なことは、検査値などの客観的な検査ではなく、回答者自身の「主観的な評価」が骨折リスクの予測に役立つという点です。
これまでの研究で、転倒歴や運動習慣の有無と骨折との関連は報告されていましたが、「主観的な歩行速度の低下」が新規骨折と関連することが示されたのは、本研究が初めてです。

米国疾病対策センター(CDC)の転倒リスク評価ツールは12の質問と客観的な測定を含みますが、日本の「後期高齢者の質問票」の3つの質問は、回答者の負担が少なく、より広い範囲でのスクリーニングに有用である可能性が示唆されます。

骨折は単なる「転倒」ではない

高齢者にとって骨折は、単なるケガ以上の深刻な影響をもたらします。

大腿骨近位部骨折などの重篤な骨折は、14〜36%のケースで死亡につながり、最大20%が自立歩行能力を失うとされています。その結果、10〜60%が自宅に戻れなくなるといった、生活の質を大きく変えてしまう可能性があります。

3つの質問と年齢、性別を組み合わせた簡便なスクリーニングツールを活用することで、骨折リスクの高い高齢者を早期に特定し、重症化を予防するための介入につなげることが可能になります。

【保健観点】主観×客観データ分析で早期予防に繋げる

この研究は、限られた情報で効率的にハイリスクの人を発見し、保健事業のリソースを最適に配分するための重要な示唆を与えています。レセプトや健診データは、このような「質問票」と実際の医療情報(骨折の有無など)を結びつけ、エビデンスに基づいた保健事業を設計する上で強力なツールとなります。

ハイリスクの人への効率的な介入

「歩行速度の低下」「転倒歴」「運動習慣の欠如」という3つのリスク因子と年齢、性別を組み合わせてハイリスクの人を発見し、重点的な保健指導や運動プログラムへの参加を促すことで、骨折予防にリソースを集中させることができます。

早期発見と医療費適正化

骨折は高額な医療費を伴うため、軽微な兆候(主観的な身体機能の低下)を早期に捉え、医療機関への受診勧奨や適切な予防策を講じることで、将来的な医療費の適正化が期待できます。

データ活用の重要性

従来の健診データに加え、後期高齢者健診の質問票のような主観的な情報をレセプトデータと紐づけて分析することで、骨折に対するより精度の高いリスク予測モデルを構築できることが示されました。これは、被保険者の健康課題を多角的に捉える上で、データ活用の重要性を再認識させるものです。

研究の注意点

なお、この研究結果を解釈する上での注意点として、以下が挙げられています。

・健康診断は義務ではなく、健康な人ほど受診する傾向が高く、偏った集団での研究となっている可能性があります。
・本研究は日本在住者のみを対象としたため、結果の他国への一般化には限界がある可能性があります。
・DeSCデータベースには新規転倒発生に関する情報が不足しているため、過去の骨折と新規骨折を区別できなかった可能性があります。しかしながら、過去の骨折とは異なる部位での新規骨折の発生を調査した分析の結果も同様であることは確認できています。

※本研究には、保険者様の効果的かつ効率的な保健事業の実施に資する範囲で、アカデミアや製薬企業による論文発表などのエビデンス創出に活用することに利活用許諾をいただいた匿名加工情報、および提案募集制度を介して提供を受けた行政機関等匿名加工情報が用いられています。

引用・参考文献

1.Sato S, Sasabuchi Y, Aso S, Okada A, Yasunaga H. Association between subjective physical function and occurrence of new fractures in older adults: A retrospective cohort study. Geriatr Gerontol Int. 2024;24(4):337-343. doi:10.1111/ggi.14830

監修医師:石原藤樹

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